吉良 創園長お便り
こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。
2023年3月号
『期待すること、関心や興味を持つこと』
子どもが、その子らしく健やかに育っていくことに希望を持つことは、素晴らしいことです。子どもの成長発達だけではなく、この社会情勢の中でも、希望を持って生きていくことは、私たちの生きていく力に、光を与えてくれます。しかし子どもや社会やその他いろいろなことに対して期待することは、希望を持つこととは違い、よいものを生み出すとは限りません。
私たちは子どもに対して、いろいろと期待します。「残さずに食べて欲しい」、「早く寝て欲しい」、「風邪を引かないで欲しい」、「兄弟げんかをしないで欲しい」。挙げていくときりはありません。夫は妻に、妻は夫に、親は子どもに、子どもは親に、教師は生徒や保護者に、親は教師や学校に、上司は部下に、部下は上司に、国民は国に、国は国民に、いろいろと期待します。
しかし実際には多くの場合、期待は裏切られてしまいます。そして期待が裏切られると、期待した人には、イライラ、がっかり、怒り、むかつき、悲しみ、悩みなどが生じます。期待は、期待する人が一方的に、勝手にしているものなので、期待される方の意志、現実や都合などは、気にされていません。もちろん、勝手に期待したことが、期待された方の意志、現実、都合などとうまく合えば、期待通りにことが運びます。しかしそのようになる可能性は低いのではないでしょうか。期待をかけられた方からすると迷惑というケースも頻繁です。
期待する人と期待される人が、同じ人間であれば、期待が裏切られることはないのでしょう。しかし、期待する人と期待される人は別の人。何かを期待するときは、意識的、無意識的を問わず、自分にとって都合のよいことを相手に求めてしまいます。
子どもや、相手に対して、期待する代わりに、ありのままのその人を見る、感じる、受け入れてみましょう。事実を事実としてしっかりと客観的に見るのです。それによって子どもの意志、現実、都合に気づくことができます。そして子ども自身が今、何をしたらよいか、子どもに対して私はどう関わったらよいかが、事実に即したかたちでわかってくると、それを行ったとき、ものごとがうまく動くのではないかと思います。この場合、その子どもに相応しいことを期待することになるので、期待は裏切られずにすむでしょう。また、期待されているからそれに応えるべき、ということを乳幼児に期待しても裏切られるだけ。期待に応えたいという意識をはっきりと持つことができるのは、9歳くらいになってからだと思います。
ものごとがうまくいかない原因の一つは、事実や現実をしっかり見ることをしないで、こうあるべきだ、こうして欲しい、という現実でないことを基準にして行為してしまうことにあるのだと思います。子どもや相手に関心を持つこと、興味を持つことは、現実を客観的に見ることの出発点になります。関心を持つこと興味を持つことは、外から仕向けられることではなく、私が自分から関心を持ち、私が興味を持つのです。そして相手に対する愛がないと関心を持つことはできません。子どもや相手に対する愛情が、一方的な期待にならないように少し意識してみましょう。
園児たちの、そして卒園して1年生になる子どもたちの、これからの健やかな育ちに関心、興味を持ち、希望を持ってあたたかく寄り添っていきたいと思います。