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園長お便り

 滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。

023年9月号

『「子離れ」と「親離れ」』

 私たちの記憶はいつから始まるのでしょう。皆さんの思い出せる一番古い記憶はいつごろでしょうか。一般には三歳くらいから記憶が始まると言われています。三歳というと、ちょうど反抗期やイヤイヤ期が終わるころで、自分意識の最初の目覚めの時期。自分のことを「わたし」「ぼく」という一人称で呼べるようになります。それまでは「たーくんはね」「みっちゃんはね」と、子どもの文章の主語は、周りの人から呼ばれる自分の名前です。

 

 イヤイヤ期に子どもは、「いや」「だめ」「しない」と、ぶつかり抵抗することで自分を確認しています。生まれた時には真っ暗だった意識は少しずつ明るくなり、その明るくなってきた意識のことを「私」と感じるのが、最初の自我の覚醒です。そしてそこから思い出せる記憶が始まります。

 

 自分の意識と結びついた三歳頃から蓄積されていった記憶は、今の私たち大人の自分の意識の元となっています。そしてこの自分意識は自分だけのもの。自分だけの内的な領域である「私」そのものです。

 

 では、思い出すことができない、赤ちゃんから反抗期までに体験したことを、私たちは忘れてしまったのでしょうか? そうではなく、三歳までの子どもが生活の中で体験は、自分の身体に刻み込まれているのです。意識的に思い出すことはできませんが、忘れることもできません。三歳までの子どもが生活のすべては、子どもの身体と結びついた無意識の中でずっと生き続けるので、その時期をどう過ごすかは、その人の一生に影響を及ぼします。

 

 三歳以降の子どもの自分意識は、他の人から切り離された、孤立した自分だけのもの。小学生や中学生の頃を思い出してみてください。当時の自分が何を感じて何を考えていたかを、自分の親はほとんど理解していなかったことは明らかでしょう。自分だけの「私」という内的領域がしっかり育っていくことが、子どもの成長発達には不可欠です。そのためには、親や教師は、子どもの「私」という領域に介入、侵入しすぎないことが大切。子どもも大人も、自分が自分でいられる領域、心地よい空間や時間が必要なのです。

 

 子どもの「私」を受け入れ、子どもの「私」がどのように育っていきたいのかに、耳を澄ましていきましょう。子どもの自分の領域を認めて守ってあげること、余計な介入侵入をしないで愛を持って見守ることが、親にとっての「子離れ」で、三歳頃から少しずつ「親離れ」していった結果が、今の私たちの自分意識なのです。

 

 一人ひとりまったく異なる、その人ならではの「私」の光が輝き育っていることが感じられるような、風通しや見通しがよく、静けさのある心地よい生活が送れたらと思います。

 

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