吉良 創園長お便り
こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。
2022年5月号
『これからの時代にどう備えるか』
インターネット・オブ・シングス(IoT 物のインターネット)がさらに先へ進み、既にインターネット・オブ・ビヘイビア(IoB 行動のインターネット)あるいはインターネット・オブ・ボディ(IoB 身体のインターネット)の時代が始まっています。
インターネットを通して、家の中の家電などをコントロールするのが「物のインターネット」。インターネットを通して人間の行動や身体をコントロールするのが「行動や身体のインターネット」です。位置情報、ネットショップや店舗での電子マネーやポイントでの購買、SpotifyやNetflixなどの音楽や映画のサブスクリプションやYouTubeでの視聴などなど。これらはすべて記録され、その人の行動の傾向がAIによって予測され、その人がしたいこと、買いたいもの、視聴したいもの情報が送られてきます。自分で考えなくても自分のすることを決めてもらえる世界が既に始まっており、便利になったと感じている人もいるかと思います。将来は、AIによる私に関する情報からの予測が、直接私の心や身体に届き、私の思考や行動も気がつかないうちにコントロールされているような時代になるのかもしれません。
Society5.0、ムーンショット目標といった、未来社会の計画が内閣府のホームページにも掲載されています。VR空間(仮想空間)でアバターを介していろいろな体験ができる、普通の実社会で出来ないことが出来る未来の素晴らしい世界が予定されていて、そこに向かって社会は確実に動いています。スマートシティ計画も進んでいます。それらのために、4Gは5Gに、そして更に先へと移動通信システムも進んでいき、それによる人体への電磁波の影響は深まっていきそうです。
そういった未来の世界に順応していく人、それを喜んで体験していく人を、今の教育や社会は育てようとしているように感じます。30年後の社会、今の年長児が36歳になった時の社会は、どうなっているのでしょうか。幸せな暮らしができる世界なのでしょうか。
子どもたちには、これからのメタバースの世界において、本当に人間らしく生きていくことのできる人に、育っていってほしいと思います。そのために何が必要かを考えてみると、
乳幼児期からIT機器の中で暮らし、ゲームばかりしたり、YouTubeばかり見たりするのではなく、人間らしい普通の生活を楽しんでいくことなのだと思います。今の社会からIT機器を無くすことはできず、共存していくことは必要です。しかし、ヴァーチャルな体験ではなく、直接感覚を通したリアルな体験こそが、子どもが人間らしく育っていくためには、本当に大切なのです。
南畑牧場やおひさま農園、さまざまな芸術活動や体操や手仕事、美味しい無添加の食事、職員によるさまざまな手づくりのもの、縦割り保育での異年齢の子どもたちとのふれあいなどのしおん保育園ならではの活動は、これからの社会の中で生きていく、子どもたちにこそ必要なことなのだと思います。触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚により、メディアを介さないで直接、人間や動植物などを、感じ体験することは、それぞれの生命の「質」を感じるということ。「質」との出会いによって、子ども自身の目に見えない「質」、「生命」が育っていきます。
ヴァーチャルな世界の中では「生命」と出会うことはありません。アバターもロボットも生まれることも成長することも死ぬこともできない、生命を持たない物です。それぞれの子どもが健やかに育っていくために、私たち大人自身も、体、心、精神的に健康で過ごしていくために、何が大切か、しっかり考えて実践していきましょう。