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創園長おたより

 滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。

024年7月号

『ごっこ遊びの原動力』

 

 ある子どもが左手に持った積み木に右手で持った積み木から何かを注ぐような仕草をしています。何をしているのでしょう? その子どもは「お母さん」役。左手の積み木は「コップ」で右手の積み木は「ポット」です。つまりお母さんがコップに麦茶を注いだのです。そしてそのコップ(積み木)をお父さん役の子どもに「お父さん、麦茶ですよ」言ってそっと差し出し、お父さん役の子どもは、その積み木を手にとり、飲む仕草をして「ありがとう、おいしいね」とお母さん役の子どもに伝えました。

 

 この「お母さんごっこ」「おままごと」「ごっこ遊び」の中では、積み木はコップやポットであり、その中には麦茶が入っていて、実際に美味しいのです。

 

 子どもはこのように、ある物を他の物に「見立てる」能力をもっています。そこに働く力を「想像力」、「創造力」「ファンタジーの力」などと呼ぶことが出来ます。この能力を持ち始めるのは、個人差はありますが、二歳過ぎの反抗期(イヤイヤ期)を過ぎたころから。それは幼児期ならではの「ごっこ遊び」の原動力です。

 

 この力によって子どもは、ものごとの意味や概念を対象物に結びつけるのです。実際には、積み木は木の塊に過ぎず、コップやポットではなく、麦茶も入っていません。しかし、その子ども達は、コップ、ポット、麦茶、麦茶を入れて差し出す、それを飲む、ありがとうと言う、などのこの遊びと関わっているいろいろなものごとの意味や概念を、生活の中での体験を通して把握しており、その意味や概念を、そこにあった積み木(もの)に結びつけたのです。この抽象的な概念を物に結びつける能力は、その後の思考の発達、問題解決のやり方などにつながっていきます。

 

 生まれた時に人間は未発達、未分化な状態なので、周りにいる人間の営みを真似することによって、いろいろなことを学び、身につけていき、人間になっていくことが必要。無意識に真似する能力は、乳幼児が人間になっていくために必要な生まれ持った能力なのです。

 

 二歳ごろからの反抗期(イヤイヤ期)前の子どもは、お母さんが今使っている「そのしゃもじ」を使ってご飯をよそいたい、お父さんが使っている「そのボールペン」で書きたい、砂場であの子が使っている「そのシャベル」を使いたいのです。このように周りにいる人の行為を、使っている物も含めて、まったく同じことをしたいという模倣衝動を強く持っています。

 

 この模倣衝動は「ごっこ遊び」にもつながっています。反抗期前の子どもはお母さんと同じ物を使って同じことをしたかったのが、この「見たてる能力」を使って、他の物をリアルなものに見立てて、お母さんのしている行為を、模倣、再現するのです。

 

 このような「ごっこ遊び」を幼児期にたくさんすることは、子どもが健やかに育つことを促します。遊びの中で周りにいる大人の営みを真似して再現することによって、人間本来の営みを身につけていくのです。そしてこの遊びは、ゲームに代表されるような外からの与えられた刺激に対応していく遊びではなく、子どもの自身の体験と、模倣衝動による、自主的、自発的な遊びです。「ごっこ遊び」がたくさんできる時間的、空間的環境を整えたいものです。

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