吉良 創園長お便り
滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。
2023年4月号
『人間性・社会性のお手本』
人間の赤ちゃんは、生まれた時には、人間本来の直立する姿勢をとることができません。二本の足で歩くことも、手を使って何かをすることもできません。赤ちゃんは人間ですが、一人前の人間として一人で生きていくことはできません。
人間は一人で生きていけるだけの体、心、精神(自分意識)が未発達の状態で生まれてきます。人間は生まれてから「人間になっていく」必要があります。生まれてから最初の三年の間に、人間としての姿勢、直立歩行を獲得し、言葉を話し始め、考えることを始め、自分のことを自分だと感じる意識の覚醒の第一段階に到達します。
しかし放っておけば、勝手に人間になれるわけではなく、どのような人間になるかという「お手本」が必要です。子どもと共に生きている私たち大人は、子どもにとってお手本。そのお手本を子どもは無意識に模倣していきます。人間と違って、動物は生まれながらに、生きていくために必要な姿勢や能力を遺伝や本能によって刻印づけられています。「種」としてのその動物の性格や特徴をはっきりと持って生まれてくる動物に比べて、人間は精神的個性の違い、心のあり方の違い、体質の違いなど、「個」として一人ひとりの違う特徴が、とてもはっきりしています。
それぞれの人間には、精神的個性、遺伝的体質という二つの先天的な個性が与えられていますが、その二つの先天的な個性は、生まれてからの生活の中で後天的に結びついていきます。そして、この後天的な部分は、どのような人間になっていくかということと大きく関わっています。それは、どのような人間をお手本として真似していったかということ。乳幼児期の子どもの持っている無意識に真似をする能力は、人間になっていくための能力ということができます。
赤ちゃんの時から子どもは、周りの人間が自分にどのように接するかを体験し、人間とはそのように行為するものだ、ということを身につけていきます。私たちは、人間になっていく子どもたちにとってのお手本であり、私たちがどのように他の人達と接するかは、子どもが身につけていく社会性のお手本です。
子どもにとってのよいお手本として行為したり話したりすることは、なかなか難しいことです。私たちの行為や言葉は、多くの場合は無意識で、習慣といってもよいようなものだからです。しかし意識的にできることもあります。それは、子どもが真似をして身につけるべきでないことを、子どもの前で行わないように、言わないように、考えないようにする、ということ。私たちのことを愛している子どもたちは、私たちの行っていること、話していること、考えていることを、無意識に「よいもの」として真似していきます。そして、よき手本であろうと少しでも努力している大人の姿は、成長発達している子どもにとって、とてもよいお手本となるのです。
園児たちにとって、家庭では家族皆が、保育園では子どもの傍らにいる保育士や他の職員たちがお手本となりますが、子どもたち同士もお互いに模倣し合います。四月になり、お互いにお互いを育てあっていく関係、大家族のような滝山しおん保育園の一年が始まりました。みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。