吉良 創園長お便り
滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。
2023年6月号
『シンプルな伝わる言葉』
子どもに何かをして欲しいときは、その行為を目の前で行うのが一番うまく伝わります。直接見た行為は一目瞭然、子どもは見たことを自発的に自然に真似して行います。乳幼児はそのように行為する能力を持っているのです。言葉による説明や口上書きは、目の前で行為していても、子どもの自然な模倣を妨げてしまうことがあります。でも、伝わるやり方もあります。
靴を脱ぎ散らかした男の子を呼び止めて、横山先生は次のようなことをしました。「よく見ててね」と言うと、ゆっくりとその子どもの靴を手に取り、靴箱へ持っていき、そこにそっとしまいました。そして、その子の目を見て、「ね!」と一言。その子には、靴は脱いだら靴箱にしまうことが、当たり前なんだとちゃんと伝わり、その行為は自然に繰り返されていき、よい習慣になっていきます。
もしこの時、「誰ですか! ここに靴を脱ぎ散らかしているのは!あ!〇ちゃんか!靴は脱いだらちゃんと靴箱に入れなきゃいけません!早く、しまいなさい!」などと大きな怒っている声で言ったら、〇ちゃんは次もおそらく靴は脱ぎ散らかしたままでしょう。もし、次回から靴をしまうとしたら、しまわないと怒られるから、と子どもなりに考えた結果かもしれません。
子どもに伝わるのは、具体的な言葉です。その子が何をしたらいいかをシンプルに伝えるのです。「帽子をかぶる」と伝える場合、「帽子をかぶります」「帽子、かぶろう」といった、具体的に何をしたらよいかだけを伝えます。「ぼ・お・し!」とだけでも伝わります。帽子をかぶらずに外にいる子どもには、「〇ちゃんの帽子はどこ?」と言うような言い方もよいと思います。「お外に行くから、帽子をかぶりなさい」「お外はお日様が照っていてとても暑いから、帽子かぶらないとダメ!」と言うように説明の部分が加わると、本題の「帽子をかぶる」と言うことが伝わりにくくなってしまうものです。
次は、否定文を使わないと言うことです。子どもが走り回っているとき、「走っちゃいけません!」と私たちは普通、言ってしまいます。そのとき、子どもがすべきことは何かを考えると、それは「歩く」こと。「歩くよ」「ゆっくり歩こう」のように具体的にその子がすべきこと、行ったらよいことを、シンプルに、説明をつけずに伝えます。一度にたくさんの内容を伝えないようにすることも大切。その時にその子どもに伝えたいことを肯定文でシンプルに、そのことだけを伝えます。特に最初に説明がたくさんあって、最後に「だからそれはしてはいけません」と伝えても、子どもはその最後の部分までちゃんと聞くことは難しいですし、ましてや否定文では、何をして良いのやらわからないのです。
そしてもう一つ。疑問文を使わないと言うこと。「片づける? そろそろおうちに帰る? もう寝る?」などの疑問文に対して、ほとんどの子どもは「NO」と答えます。文章の最後に「?」があると、それは「片づけない!帰らない!寝ない!」という否定の回答を、実は誘導しているのです。本当は眠いのに、「寝ない!」と言わせてしまうのです。「さあ、お片付け。おうちに帰ります。寝るよ。」と言うように、文章の最後に「。」をつけてみましょう。いつもうまく行くわけではありませんが、試してみる価値は大きいです!
自分が子どもに対して、どのような言葉を話しているかを、内容や文章の面、声の質、大きさや速さ、間の取り方などの話し方の面を、是非一度、意識化してみてください。自分と子どもの性格も踏まえて、ちょうどよい言葉を探していくと、子どもの健やかな成長に、そして私たち大人にもプラスになるのだと思います。