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園長お便り

 滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。

2023年5月号

『技を盗む子どもたち』

 

 職人の世界では「技は盗め」と言われることがあります。師匠の仕事の仕方、道具の使い方、その時の手つきや動きを、弟子は、直接見て、それを真似することによって身につけていくということです。「盗め」という言い方は、あまりよくないようにも思いますが、親方はその技についてのマニュアルを弟子に渡したり、言葉で教えたりすることはあまりなく、自分の仕事をこなしていき、弟子は親方のやり方を、直接よく見て、真似して、それができるように身につけていきます。この学びは、親方が教えてくれるのを受身的に待っているのではなく、弟子が自分から進んで自主的に自発的に行うとても能動的なプロセスです。

 学校などで技を教える場合、先生は生徒に伝えるべき内容を準備し、言葉や図などを利用し、今ではIT技も多用してそのマニュアルと言ってもよいものを提供します。そして学ぶ側の生徒にその内容に興味関心がなくても、それは一方的に伝えられ、生徒本人がそれに興味関心を持って意識的に学ぼうとしなければ、受身的な学びのプロセスになってしまいます。

 乳幼児期の子どもが、周りにいる親、家族、保育士その他の人たちをお手本として無意識に真似していきます。それは弟子が親方のやり方を真似して身につけていくのと、とてもよく似ています。真似させられるのではなく、子どもが自ら無意識ですが自発的に真似していくのです。では、乳幼児が身につけていくべきことは何でしょうか。それは人間として生きていくために必要な技、スキルと言ってもよいものなのです。

 乳幼児にとって、体を育んでいくことが、この時期だけの特別なお仕事。人間として生きていくために必要な活動ができるような体を自ら育んでいきます。人間として生きていくための、人間ならではの能力、それらを獲得することと、その活動ができるような体を自ら育んでいくことをこの時期にしっかりとできたかどうかは、その後のその人の人生に大きく影響を与えます。

 子どもに言葉で伝えたり、説明したりしても、上手く伝わらないことは多々あります。子どもに伝えたいことは、子どもの前で実際に行うのが一番よく伝わるものです。子どもにとって、目の前で行われていることは、一目瞭然。そこに子どもの持つ模倣衝動が直結して、それを自主的に行うのです。

 「見倣い」という言葉も「技を盗む」こと、そして、子どもがお手本を真似していくこととつながります。乳幼児期は、人間になっていく「見倣い期間」。直接見て、真似て、身につけていきます。

 そして技を身につけるために必要なことがもう一つ。習慣のように自然にできるようになるまで繰り返すということ。繰り返して練習することにより、そのように自然に動けるようになり、その技が身につきます。子どもにとって生活のフォルム・リズム・繰り返しが大切なのは、まさにこのことと関わっています。大人のように意識的に考えて行為するのでなく、繰り返していくうちに無意識に習慣のように、人間として生きるための技を身につけて行けたらよいと思います。

 滝山しおん保育園が、園児たちにとって、人間として生きていくための技を盗める、お手本となる師匠と出会える「工房」のようになれたらと思っています。

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