吉良 創園長おたより
滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。
2024年6月号
『自然との出会いが育むもの』
自分の体を育んでいくこと。それは乳幼児の大きな課題で、生まれた時に両親からいただいた体を、一生住み続ける自分の家に作り変えていくプロセスとも言えます。その中でも感覚器官の育成は、とても大切です。
スマホ、タブレット、テレビなどのメディア・IT機器のスクリーンやスピーカーを通しての体験は「間接」的です。それ対して、触る、見る、耳を澄ます、嗅ぐ、味わうことは「直接」の体験で、それにより、感覚器官は育まれていきます。感覚器官を通して直接ものごとに出会うことにより、出会ったもの「質」を乳幼児は体験します。子どもの年齢が低いほど、出会ったものと一心同体となるとも言えます。感覚を通し、ものごとの「質」と出会うことによって、その子ならではの自分の「質」が育っていくのです。
何を見るかで視覚が、何を聴くかで聴覚が、何を食べるかで味覚が育まれます。ですから乳幼児の感覚体験、そしてその環境は、子どもの成長発達にとても大きな影響を及ぼします。そして私たちの周りの自然界は、豊かな感覚体験ができるフィールドです。
人間は自然と向かい合う意識を持った独立した存在であると同時に、自然の一部、あるいは自然そのものでもあります。子どもの成長発達を見てみると、九歳くらいに大きな変化があり、外の世界と内的な自分の間に境界線がはっきりと現れます。この時期になると、外の自然に向かい合う内的な自分意識を持ち始めるのです。乳幼児にも、徐々に自然と向かい合う意識が生じますが、まだ自然と一心同体で、自然の一部なのです。
乳幼児期の子どもは、物質としての体を育んでいるので、自然の中の「もの」との出会いはとても大切。泥だらけになって遊び、野山を駆け回り、美しく咲いた花を見つけ、花の香りを嗅ぎ、だんごむしやミミズと戯れ、きれいな蝶を追いかけ、鳥のさえずりに耳を傾け、雲や虹、雨や風、そして朝、昼、夕方、夜の違う質や、季節の巡りなどを体験し、生活や遊びの中で、大人とは全く異なる仕方で、自然界の法則、物理学、生物学、化学、天文学などを自主的に学び、身につけていきます。
家庭でも、保育園でも、子どもたちが自主的に活動できる自然を直接体験できる環境を用意したいものです。園児たちがイベントとしての自然体験ではなく、日常の保育の中で南畑牧場やおひさま農園を体験できることは、本当に素晴らしいことです。先月の親子遠足は年一度のイベントですが、その一部を保護者の皆さまも体験できたのではないかと思います。
そしてそのような環境の中で、私たち大人自身が、自然と触れ合い、驚き、美味しい、気持ちよいなどと感じることが当たり前にできたらどんなによいでしょう。大人は子どものお手本なのですから。