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創園長おたより

 滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。

024年8月号

『場所の記憶が促すもの』

 

 土用の丑の日と言えば鰻ですが、梅仕事をする人は、梅干しを干す時期に当たります。だいぶ昔の話ですが、私の娘が二歳半くらいの時のころにこんなことがありました。散歩で近所のいつも声をかけてくれるやさしいおばちゃんの家の前を通りました。すると庭一面に梅がたくさん、平たい丸い籠に綺麗に並べて干してありました。梅の土用干しです。梅酢と紫蘇の香りと、一面に広がった赤紫蘇で染まった梅の色の印象は、かなり強烈だったようです。

 

 その後その前を通るたびに、娘は「今日、梅干しないね」と言い続けました。日常の生活の中で、娘はおばちゃんの家に梅が干されていて、いい匂いがしたことは思い出してはいません。ただ、その家の前を通ると必ず思い出すのです。

 

 乳幼児期の子どもの記憶と場所は、とても強く結びついています。大人のようないつでも思い出すことのできる記憶とは異なる、場所と強く結びついた記憶を子どもは持っています。この梅干しの記憶も場所の記憶の一例です。その場所に行くと、その場所で体験したことが、無意識に自動的に思い出されるのです。

 

 その意味で子どもの生活、衣食住、遊びと関わるいろいろな物が、いつも同じ場所にあることはとても大切です。同じものが同じ場所にあることによって、子どもは安心し、落ち着きが生まれます。

 

 まず、子どもの関わるもの(おもちゃ、靴、帽子、服、食器などなど)に、定位置、その物の居場所、お家を決めてみましょう。棚の真ん中の段、一番下の引き出し、この籠の中、この箱の中、といった感じです。この積み木はいつもこの籠に入って棚の下の段にあると、その積み木を使いたい時、子どもは迷うことなくその棚なの下の段の籠に向かいます。そして片付けの時間になると、積み木を籠に入れて棚の下の段にしまうことが簡単にできるようになります。同じ場所にあることによって、繰り返しが生じ、よき習慣に繋がっていきます。

 

 次は、同じことを同じ場所で行ってみましょう。食事の際、家族それぞれの席がいつも一緒、取り込んだ洗濯物をたたむ場所がいつも一緒、お風呂の後に髪の毛を乾かしてもらうのはいつもここ。そんな感じです。同じことがいつもの場所で行われると、子どもは安心し、それが習慣のように当たり前になり、落ち着きが生まれます。

 

 同じものの特定の置き場所が決まっていなくて、その時によっていろいろな場所に置かれていたり、同じ活動がその時の親や保育士の気まぐれで毎回違う場所で行われたりすると、その活動がどんなによいものであっても、子どもを不安にし、必要以上に覚醒させ、落ち着きを奪ってしまいます。

 

 また、子どもには使う必要がないけれど大人には必要な物には、子どもの目に届かない置き場所を作ることも、とても大切です。乳幼児は現実主義者。子どもの目に触れなければ、それを使いたいと思うことも無くなるのです。子どもの目に届かない大人の物の置き場所を作ることは、子どもを守るよい環境を作ることになるのです。

 

 場所を決めてあげることは、生活にフォルム(形)を与えること。よいフォルムが子どもの朗らかな落ち着いた生活、健やかな成長発達を促します。

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