吉良 創園長おたより
滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。
2024年9月号
『場所と時間と繰り返し』
乳幼児の記憶は場所(先月号参照)の他に、時間とも強く結びついています。その時間になると時間の流れと結びついたこと、その時間に体験したこと、行ったことなどが呼び起こされるのです。
朝、登園する時間にぐずったことがあると、特別にぐずることを引き起こす要因がないのに、毎朝ぐずることがあります。自由遊びの時間に保育士がそろそろ片付けようとする頃に「せんせい、もうおかたづけ?」と聞いてくる子どももよく見かけます。もちろん場所などの時間以外の要因も合わさっているので、純粋に時間による記憶とは言い切れませんが、時間と結びついて、「腹時計」という言葉がありますが、それに似ている能力を乳幼児は無意識に強く持っているようです。あるいは「体内時計」とも関係があるのかもしれません。
その時間になると、その場所にいくと思い出すのが、時間や場所と結びついた記憶で、普段は思い出さないですが、行う活動と自分自身は無意識に強く結びついています。その活動が身につく、習慣となるということなのです。
時間の流れに伴って、その時間になると特定のよい活動が自然に行われたらどうでしょう。
生活の中の本来の人間らしい、人として身につけたらよいようなことが、時間や場所の環境を整えることによって、自然に行えて身につけられると、子どもも大人も精神的に安定し、落ち着き、生活も余裕のある楽しいものになっていきます。
家での生活や保育の中で、生活にフォルム(場所やスタイル)があり、時間の流れ(リズム)があり、それが繰り返されていくと、次に何をするかを言葉で知らせなくても、次の活動に自然に向かっていくことができます。そしていつもの活動が、いつもの場所で、いつもの時間の流れの中で行われ、それが毎日繰り返されていくと、子どもが機嫌よく落ち着いて過ごすことを促し、実は大人の生活にも余裕が生まれ、それにより子どものことをよく観察したり、機嫌よく子どもと向かい合ったりする時間が生まれてくるものです。
繰り返しにより、その活動は身についていきますが、これは素晴らしいことであると同時にとても怖いことでもあります。人間として、あるいは家庭や保育園の集団生活の中で行うべきでない活動も、毎日繰り返していくうちに、それは身につき習慣になってしまいます。身についたものを変えることは、とても大変な作業であることは皆さんもご存知の通りで、乳幼児の場合、身についたことを自分で意識して修正していくことはまだできません。9歳を過ぎて、自分のことを客観的に見る意識を持ち始めると、少しずつ可能になっていくのだと思います。
乳幼児期の子どもの一番の課題は自分の身体を育んでいくことで、人間として身につけるべきよい行為を自然に行える身体を作っていく時期です。フォルム、リズム、繰り返しのある場所や時間の整った環境を大人が作ると、それは子どもが健やかに育っていくことを支え、促してくれます。