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園長お便り

​こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。

2023年1月号

『好きなことありますか

 

 

 昨年12月の初旬にNHKスペシャル「キラキラムチュー 発達障害と生きる」という番組をたまたま見ました。とてもよい番組で、発達障害を持つ小学校高学年の子どもたちの今の生活やそれまでの成長発達を追った内容でした。小学校の普通学級には通っていないけれど、その子どもたちはとても幸せそうに楽しく暮らしているのです。

 

 彼らの共通点は、好きなことがあるということ。道路や標識が大好きな子どもは、週末にお父さんとドライブするのが好きで、全ての道路標識を熟知しており、どの道を行けばよいかがすぐにわかり、その道路がいつ開通してどの道路と繋がっているかもなどすぐに答えることができます。

 

 幼児期のプラレールからの鉄道が好きな子どもは、今は「乗り鉄」と「撮り鉄」。運転手になるのが夢だったけれど、今は鉄道関係にはいろいろな仕事があることもわかり、鉄道関係の仕事につきたいと考えています。

 

 他にも、ゲーム好きでカードゲームやボードゲームも自分で考えて作り、ゲームのプログラミングもしている子ども、とにかく数字が好きな子どもなど、どの子どもも、興味のないことは続けられないのに、好きなことに関しては、目を輝かして集中してそれに没頭していきます。

 

 成長発達の長期間にわたる調査がこの番組の背景にあり、その調査から、他の子どもと一緒に何かをしたり、同じことをしたり、学校に行ったりができなくても、好きなことをするときの能力はとても高いこと、そのように楽しく暮らしている子どもは、好きな物事が持続していることなどがわかってきたそうです。

 

 その子どもたちの母親も取材を受けており、共通して話していたことは、幼児期の自分の子どもが、他の子どもたちや集団生活に全く馴染めず、何でそうなのか、自分の育て方が悪いのかと悩んだけれど、ある時、自分の子どもに好きなことがあり、それをしているときは、落ち着いて、そしてそれをちゃんと行っていることに気づき、それに寄り添っていこうと、考え方の方向転換をしたというようなことでした。

 

​ また、研究者からは、好きなことがあるということは、発達障害を持つ子どもにとってだけでなく、すべての子どもに共通に大切であることが報告されていました。人と違うことを本人も親も教師も受け入れたとき、何かが動き始めるのです。

 

 皆と同じことをそれなりにちゃんとできること、言われたことをちゃんと行えることが、今までの世の中では求められてきたのではないかと思います。そのような人たちが今の社会を作ってきたのです。それは素晴らしいことでしたし、それが求められていた時代背景がありました。しかしそのやり方が行き詰まり、社会のいろいろなところで歪みが出てきていることに、たくさんの心ある人たちは気づき始めています。

 

 好きなことは、自発的に主体的に行うこと、続けていくことができます。そして好きなことを続けていくと、それはそのことを行う能力、才能も育っていきます。その能力は、社会の資本と言ってもよいのではないかと思います。貨幣が生まれる前の世界では、自分の能力と他の人の能力を、物やサービスの交換という形で認め合い支え合っていたのだと思います。鉄道好きの子どもは、鉄道を好きでい続けることによって、自分を見つけ、社会のために役立つ資本を作っているのではないでしょうか。子育て、保育そして教育には、社会の未来のための人的資本を育てるという面もあるのです。

 

 しおん保育園でのさまざまな活動の中で、子どもたちもそこに係る大人たちも、好きなものを見つけることができたらと思います。この子はこれが好きと、大人が勝手に決めつけるのではなく、その子どもの好きなことに寄り添っていけるような大人でありたいと思う新年です。

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