吉良 創園長お便り
滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。
2023年7月号
『言葉は習慣』
言葉を話すときに、何を意識していますか? おそらく多くの場合は、話す内容ではないでしょうか。誰かに対して話すときに意識するのは、その人に伝えたい内容。その際、どのように話すかは、ほぼ無意識です。声の大きさや強さ、高い声か低い声か、早口かゆっくりか、短い文章に分けて話すのか句読点をつけず続けて長く話すのか、文章の中や前後に間があるのかなどなど。話し方は意識していないものです。
話し方に対して無意識なのは、話し方は「習慣」だからではないかと思います。習慣になっていることは、いつもそのように行うことができますが、それを変えることはなかなか難しいのは、誰でもよく知っていることでしょう。そしてどのように話すかによって、伝えたい内容はうまく伝わったり伝わらなかったりするのです。
無意識な話し方にさらに加わるものがあります。それは、話す人の体調、心や精神の状態です。疲れていて話すときは疲れが、嬉しくて話すときには嬉しさが、イライラして話す時はその苛立ちが、加わるのです。そして話したい内容よりも、話す人の状態の方が相手に伝わってしまいます。特に乳幼児が何かをやらかした時に、イライラしてそれを怒って伝える場合、子どもには怒っている大人の表情、仕草、言葉の雰囲気などが伝わり、肝心の伝えたい内容はほぼ伝わらないのです。
どうでもよい内容ではなく、しっかり伝えたいことを話す場合、その子どもがすべきこと、したらよいことを、先ず大人がしっかりと決めた上で、その内容だけを、否定文、疑問文でない短いシンプルな言葉で伝えます。たとえば、今お片付けをするのは「当たり前」であり、「自明」であり、「例外」はないこと、それは朝にお日さまが登り夕方に沈むのと同じように、春の後に夏が来るのと同じように、当たり前だということを、私たちがしっかりと意識していたら、その言葉は伝わるものです。この首尾一貫性のようなものを大人が内面に持ちつつ、怒るのでも強く命令するのでもなく、ニコニコしすぎるのでもなく、自然に当たり前に伝えられたら、子どもなりにそのことを納得して受け入れられるのです。
子どもにとっても、話すことは習慣。成長発達する中で、運動能力を身につけていくのと同じように自然に身につけていきます。何をどう話すかも、周りの人たちの話す言葉の模倣の場合が多く、習慣のようにその言葉や文章を話します。大人の様に意識的に話しているのではないのです。子どもがよからぬ言葉を繰り返し言うことがあります。その際は、そんなこと言っちゃいけませんと怒るのではなく、「バカヤロウは言いません。」とだけ伝えてみましょう。また言ったら、同じようにこちらも繰り返します。理由や説明も不要。「〇〇は言いません。」「〇〇はしません。」と返すことがこちらの習慣になると、子どもが「〇〇と言わない」ことが習慣になる可能性が出てくるのです。
また、子どもが話すとき、その言葉と同じ内容を大人が言うときに持っている意図、考え、感情などはまだありません。「習慣」のようにそれが言えている、自然に口に出るので、子どもの言葉の表面的な字面に振り回されるのではなく、そう言っている子どもの意識や思いなどに耳を澄ます必要があります。
子どもがその言葉を聞いて安心するような、落ち着くような、話し方を私たちができたら、子どもの健やかな育ちのためにも、私たち大人自身のためにも大きなプラスになると思います。そして誰かに話すときに常に大切なのは、相手の存在に耳を澄ますこと。そして相手がどのように受け取っているかに対する想像力です。