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園長お便り

​こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。

2021年6月号

        『「見えない学力」の大切さ』

 

 先日、木村泰子さん(大阪市立大空小学校の初代校長)のウェビナーに参加しました。「みんなの学校」という不登校児のいない学校、問題児もいない学校として知られている大空小学校の一年間を追ったドキュメンタリー映画が有名で、彼女の大空小学校での取り組みはとても興味深いものです。大空小学校には校則はなく、モンスターペアレンツもいないそうです。

 

 彼女の話の内容は、実際の子どもたちや保護者(サポーターと呼ばれています)とのエピソードがたくさんあり、大阪の方ですし、とてもバイタリティのある魅力的な方で、聞き手を話に引き込む力もあります。その中で、一〇年後の子どもに必要な「見えない学力」という言葉が印象的でした。

 

 「見えない学力」とは何でしょうか。国語算数などの学科のテストで点数をつけることのできる学力は「見える学力」だと彼女は言います。「見える学力」とは「成績」、いわゆる「学力」。そして「見える学力」を育てようとするのが普通の学校の教育。この「見える学力」も大切なのですが、「見えない学力」を育てることの方が実は大切で、「見えない学力」が育っていくと「見える学力」も付いてくると言うのです。

 

 一〇年後の社会のキーワードは、「多様性」、「共生」、「想定外」。一人一人の違い、個性を受け止める力、その違う個性を持った人同士や人と自然が共に生きていく力、そして今回のコロナウイルスのような想定外のことが起こってもそれに対処して生きていく力。これらの力こそが、「見える学力」ではなく「見えない学力」なのです。

 

 彼女は「見えない学力」として、「人を大切にする力」、「自分の考えをもつ力」、「自分を表現する力」、「チャレンジする力」の四つ挙げています。

 

 例えば「人に迷惑をかけてはいけない」と教えると、子どもは人を排除するようになってしまうと彼女は語ります。迷惑をかけてはいけないと教わった子どもは、人の失敗を許せなくなってしまうのです。なぜなら、失敗をして人に迷惑をかける人は、悪い人と思ってしまうから。人に迷惑をかけるなと教わった結果、人を大切にする力が育たなくなってしまい、「あいつは邪魔」と感じてしまうのです。人は失敗を通してこそ学んでいくことができます。自分が失敗すること、人の失敗を受け入れることを通して「人を大切にする力」という「見えない学力」が育っていくのです。

 

 彼女の話を聞いて、滝山しおん保育園との共通点をたくさん感じました。乳幼児期にこそ「見えない学力」の基盤が育まれていきます。

 

 講座の後、彼女の最近の著書を読みました。とても読みやすい本ですが、示唆に富んでいて勉強になります。子どもと共に生活する大人皆に読んでいただきたい本です。保護者の皆さん、ぜひ読んでみてください。子どもへの接しかたのヒントが満載です。本当に一番読んでほしいのは、教育行政と関わる政治家やお役人の皆さんですが・・・。

 

『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』

「困った子」は「困っている子」

 木村泰子著 青春出版社 2020

 

​過去のお便り

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