吉良 創園長お便り
こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。
2022年9月号
『子どもの寝顔』
私たちは朝起きて、昼間の生活を送り、夜に眠ります。眠っているとき、意識は無くなり、目覚めると日常の「わたし」という意識が活動し始めます。起きている日常の「わたし」意識があるときは、覚醒している状態で、眠っているときは無意識で覚醒していない、文字通り眠っている状態です。また、覚醒しているときは緊張、収縮、集中している状態で、眠っているときは弛緩、拡散、緩んでいる状態です。
二つの状態、収縮と弛緩が繰り返されていくと、そこに「リズム」が生まれます。リズムの中で最も身近なものは「呼吸」です。息を吸うときは緊張し覚醒し、息を吐くときは、緩み眠る方に向かいます。呼吸の面白いところの一つは、呼吸が普通にうまく営まれているとき、私たちは呼吸を意識していないないということ。逆に、呼吸のリズムが乱れると、呼吸していることを意識するのです。そして呼吸のリズムがうまく流れているとき、私たちは落ち着き、安心します。
呼吸や心拍などの体と結びついたリズムがうまく機能しているとき、私たちは調子がよい、機嫌がよい状態にあります。体の調子がよいとき、体という「家」の中での生活、つまり、心や精神の営みがうまくいくのです。そして、生活にフォルムがあり、リズムがあって繰り返されていくと、それは子どもにも大人にも、安定、安心、落ち着きをもたらします。
生活のリズムは時間割ではないので、何時何分に始めるとか、何分で終わりにするということではありません。たとえば、子どもが夜に寝るまでに行うことを、いつも同じ順番で、それぞれの活動を同じ場所で、同じように出来るようにしてみましょう。先ずその子どもにあった生活のリズムを考えて、それを三日間続けます。三日坊主と言いますが、三日間は続けるには、はっきりした意志が必要です。でも三日間続けてみると四日目以降、それまでよりも意識しなくても行えるようになるでしょう。そして一週間続くと、かなり普通に行えるようになるのではないかと思います。そして四週間続けることが出来たら、それは既に習慣になっています。
早寝、早起きといった人間の生活の基本も、いつも同じように繰り返すリズムにすることができると、子どもを育む大きな力となります。体を作っている乳幼児期の子どもには、十分な睡眠が必要です。そして早く寝ることもとても大切。睡眠と覚醒のよいリズムを作ってあげることが、子どもの健やかな体づくりに働きかけるのです。
テレビ、ゲーム、スマホ、タブレットといったメディアからの音や映像は、子どもがよい眠りに入っていくことを妨げます。子どもが寝る前のしばらくの時間、その刺激から子どもを解放してあげてください。またすぐに寝入ることのできない子どもも、寝る時間になったら布団の中で目を閉じて静かに過ごすことを習慣に出来るとよいです。すぐ寝入らない子どもを急いで寝付かせようとしてもうまくいきません。
子どもが眠ったら、ぜひ毎晩、一〜二分子どもの寝顔を静かに見る時間をつくってみましょう。すやすやと眠っている子どもの寝顔を、静かにゆっくりと眺めることによって、私たちの一日の仕事の疲れやストレスも、子育ての大変さも、忘れることができるかもしれません。そして、この子が健やかに育っていくことをサポートしていくという大切な役割を再確認できると思います。