吉良 創園長お便り
こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。
2021年9月号
『今を生きている子ども』
時間というのは不思議で、過去から未来に向かって流れていき、その流れの中に「今」があると感じられると同時に、未来から流れてきて「今」を通過してすぐに過去になっていくとも感じられます。子どもは、大人と比べて、未来から過去へ流れている時間と無意識に強く結びついているように思います。
私たち大人は、過去を振り返って、過去の出来事を評価したり反省したりできますし、それにより気づいたことを、今度はこうしようと意識的に未来につなげることもできます。自分の意志で今の行為をコントロールできるのが本来の大人でしょう。
乳幼児はどうでしょうか。彼らは「今」の住人。「今」を生きており、未来や過去を大人のように意識することはまだできません。過去を意識的に振り返って、次にはこうしようと意識的に自分の行為をコントロールすることは、5歳を過ぎた頃から少しずつできるようになってはいきますが、個人差もあり、もちろんすぐに大人のようにできるようになるわけではありません。
また乳幼児は、大人のように理由を意識して行為することはできません。いわば自然現象のように、無意識に、自然に「今」を生きているのです。そのような乳幼児に対して、私たち大人が当たり前に、けっこう頻繁に使ってしまう言葉があります。「どうして?」「どうしてそうするの?「なんでまだやっていないの?」といった「今そうしている理由」を問う質問です。
意識的に行為していない子どもに、その行為をしている理由、していない理由を問うたところで、答えられないのが普通の子どもの姿。自分でその行為をしている理由を大人のように意識できる子どもはいないのです。ただ、その子どもがその行為をしている理由は必ずあります。でも、その理由を子ども自身は知らないのです。「どうして」と子どもに尋ねても子どもが答えられないとき、その行為をやめないとき、私たちは、イライラし、それは子どもへ接し方に直結してしまいます。子どもが何故その行為をしているのか、何故その行為をしていないかは、子どもに問うのではなく、大人自身で見つける必要があるのです。
子どもが生まれながらに持っている精神的個性、遺伝により受け継いだ体質、生まれてからどのように生活してきたかという環境。この三つのことが子どもの「今」に現れています。そして子どもがその行為をしている理由が、その中にあります。
先月、子どもを観察することについて少し書きましたが、子どもが何故その行為をしているかを理解するために、子どもをよく観察することは、とてもプラスになります。子ども自身のことはもちろんですが、子どもの暮らす環境、子どもへの私たち大人の関わり方なども、客観的によく観察してみましょう。それにより子どもの「今」の姿に近づくことができ、子どもをその行為に駆り立てている「理由」にも気がつくことができると思います。そしてそれは、大人が自分の思いや考えを子どもに押しつけて、そうならないことでイライラするのとは違う、子どもにも大人にも調和の取れた生活へとつながっていきます。