吉良 創園長お便り
こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。
2022年11月号
『触覚の大切さ』
触覚は、自分の外にあるものに直接触る感覚です。私たちの体は皮膚に覆われていますから、皮膚が自分の外にあるものに直接触れるのが触覚です。何に触れるかによって育っていく感覚です。
子どもたちは、生活の中でどんなものに触っているでしょうか。布団、パジャマ、下着、オムツ、シャツ、ズボン、スカート、靴下、水道の水、歯ブラシ、歯磨き粉、コップ・・・。朝起きてからの子どもの生活を思い出してみるだけでも、かなり多くのものに子どもは触覚を通して直接触れています。その触覚を通して出会うものが、どんな「質」を持っていて、どのような感覚印象を子ども与えているかを一度ふりかえってみてください。子どもの成長発達にプラスになる触覚体験と、そうでないものに気づくことができると思います。
しおん保育園の保育で、木や天然の素材のおもちゃを多く揃えたり、自然の中でたくさん遊んだり、南畑で動物たちと触れ合ったり、布おむつを使うことも、子どもが直接のよい感覚体験ができて、様々な「質」と出会うことがその目的です。それは子どもの健やかな成長発達を促し、自主性を育みます。感覚を通して直接、いろいろなものの「質」と出会うことで、子ども自身の「質」が育っていきます。
触覚は外のものと出会う感覚ですが、外の世界と出会っている自分自身を感じる感覚でもあります。子どもがいつも同じタオルとかぬいぐるみなどを手放さず持っているときや、大人が愛着のある道具を手にして仕事をするときなど、触覚を通して、いつもと同じ「質」を体験すると同時に、自分自身を体験し確かめているのです。それにより安心、安定がもたらされます。同じ物を感じている同じ自分も感じているのです。
そして人と人との直接の肌と肌の触れ合いは、触覚を育むことに大きく関わります。触れてあげることによって、子どもは自分と相手との境界線を感じます。自分の体を自分のものとしていく乳幼児期の子どもにとって、自分の体と外との境界を体験することは、自分の体と出会うだけでなく、最初の自分意識の目覚めにもつながっていきます。また、触ることにより、触った相手だけでなく自分も感じ、触られることにより、触ってくれる相手を感じるだけでなく自分自身も感じています。スキンシップにより安心感が生まれるのはこの両方を感じるからではないかと思います。
人と人との肌を通しての触れ合いは、素晴らしいものですが、とても繊細な面もあります。無理に触ることは相手に、不快感、恐怖感、不安感などを感じさせてしまいます。一方的に触れるのでなく、相手がどう感じているかも意識して、相手が心地よさや温かさを感じるようなやり方で、子どもを抱っこしたり、手をつないだり、わらべ歌などのふれあい遊びをしたりできるとよいと思います。
コロナの影響で直接の触れ合いの難しさが続いていましたが、これからはまた普通の触れ合いができるようになっていくと思います。また、子どもたちだけではなく、IT、AI、VRの現代社会に生きる私たち大人にとっても、リアルな感覚体験は、人間らしく生きていくためにとても大切でないでしょうか。アバターさんとは、握手もハグもできません。