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創園長おたより

 滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。

​過去の記事

024年11月号

​『赤ちゃんからの自己教育』

 

 赤ちゃんは産まれて三か月くらい経つと首がすわりますが、皆さんの中で赤ちゃんに対して、どのようにしたら首がすわるかを教えた方はいらっしゃるでしょうか? いろいろな育児書やいろいろな教育学からの実践書はたくさんありますが、首のすわらせ方が記されているものはおそらくないと思います。

 赤ちゃんは無意識にですが、首の座らせ方を自分で獲得していきます。親も保育士も首のすわらせ方を教えることはできないですし、教える必要はありません。その後のおすわりの姿勢を取ることも、ハイハイを始めることも、つかまり立ちすることも、手を離して直立して、最初の一歩を踏み出すことも、そのやり方は自分で無意識に見つけていくのです。そこには自分で育っていこうという意志が働いています。

 出産の時に妊婦は赤ちゃんを産もうという強い意志を持っていますが、胎児は産まれてこようという意志を持っているので、出産は共同作業です。出産に際して胎児の産まれてこようという意志を感じられた方も多いと思います。この産まれてこようという意志は、育っていこう、自分を育んでいこうという意志につづいていきます。生きていこうという意志とも言えるものです。それは人間になっていく意志、人間としての身体的能力、心や感情のあり方、思考能力などを身につけ学んでいこうという意志でもあり、もっと長く人生全体を見てみると、成人してからは自分や自分の身体を維持していこうという意志であり、人生の後半になると老いていこうという意志、そして死んでいこうという意志につながっていきます。最後の二つの意志は自覚したり肯定したりするのが難しいですが。

 「すべての教育は自己教育だ」と言われることがありますが、人間は生まれたときからこの生きていこうという意志により自己教育をしています。赤ちゃんが自分で首を座らせることができるのは、自己教育の結果なのです。この観点からすると、子どもが学ぶべきものごと、身につけるべきことを、子どもが自分で興味を持ち自分で身につけ、学んでいこうという意志を持てるように準備してその子どもに合った形で子どもの前に提示できる人こそ、よい保育士、教師、親なのだと思います。乳幼児の場合は、子どもが自己教育していくためにふさわしい環境を整備できるかが大切で、それは保育園の大きな課題です。この環境には当然、その環境の中にいる人間も含まれています。

 学校教育が終わったから大人だ、大人は既に完成している存在だという考え方もありますが、成人してからも自己教育を続けていくことができるのが人間のすばらしいところ。そして大人の自己教育には大切なのは、ありのままの自分を客観的に観る視点を持つことです。自分自身を客観的に観察できる人は、子ども一人ひとりをしっかりと観察することができます。

 自己教育を続けている大人が生活環境にいることほど、自己教育をしていく子どもにとってよいお手本はありません。そして子どもと一緒の生活は自己教育のチャンスの宝庫です。

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