吉良 創園長おたより
滝山しおん保育で毎月発行している園だよりに掲載された記事です。
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2025年11月号
『自然をリアルに感じること』
本当に暑かった夏が去りました。彼岸花はお彼岸に咲きましたが、金木犀は例年より遅い開花でした。今年の紅葉にも影響があるのでしょうか。日本から秋がなくなるなどという人もいますが、それでも私たちが日本に住み、四つの季節を体験できることは、とても素晴らしいことです。
乳幼児の大きな課題は、自分の体を育むこと。親からいただいた体を、一生住み続ける自分の家に作り変えていくプロセスです。それぞれの器官が本来の機能を持つように、本来の形へと形成されていきます。感覚器官の育成は、この体づくりの中でもとても大切です。
スマホ、タブレット、テレビなどのメディア機器のスクリーンやスピーカーを通しての体験は「間接」ですが、リアルな感覚体験は「直接」です。直接、触り、見て、耳を澄まし、嗅ぎ、味わうことを通して、それぞれの感覚器官は育まれます。直接の感覚器官を通した出会いでは、出会ったもの「質」を体験します。子どもの年齢が低いほど、出会ったものと一心同体となるとも言えるのです。感覚を通し、ものごとの「質」と出会うことにより、身体的、心的、精神的な、自分の「質」が育っていきます。
何を見るかで視覚が、何を聴くかで聴覚が、何を食べるかで味覚が育まれます。乳幼児期の感覚体験、そのフィールドである環境は、子どもの成長発達に大きく影響を及ぼします。そして私たちの周りの自然界は、豊かな感覚体験の宝庫です。
保育園の隣のすいせん公園では、秋になると沢山の木の実が落ちます。大きな栃の実、いろいろなドングリ、そして椎の実。子どもたちはドングリが大好き。たくさん集め、そこからいろいろな遊びが始まります。そして南畑牧場でもたくさんの直接の発見、体験があり、自発的な遊びが繰り広げられます。
子どもは生活や遊びの中で、大人とは全く異なる仕方で、自然界の法則、物理学、生物学、化学、天文学などを自主的に学び、身につけていきます。そこには自然の四つの質、「地水火風」との出会いがあります。
私たち大人は、乳幼児に自然についていろいろと説明したり教えたりするよりも、自主的に自然を直接体験できる環境を用意することをしていきましょう。私たち自身が、自然と触れ合い、美しい、美味しい、気持ちよいと感じたり、驚いたりできることは、とてもよい「お手本」となり、子どもはそれを真似するのです。
今の時代、これからどんどん進んでいくITの発展と共に、バーチャルなメタバース空間と付き合うことが人間の生活の中に増えていきます。その中でAIに頼りすぎるのでなく、しっかりと自分で感じ、考え、意思決定し、行動できる人間に育っていくために大切なことは、自然の中でのリアルな体験の積み重ねです
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