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園長お便り

​こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。

2021年12月号

           バランスという器

 

 

 自分の体を健やかに育んでいくこと。これは乳幼児の、この時期ならではの大きな課題で、体が育つことには様々な運動能力を身につけること、感覚器官を育むことも含まれています。行為するための道具としての自分の体を思いのままにコントロールできることは、自由で自発的な活動の基盤です。乳幼児は先ず、頭ではなく、体が賢くなる必要があるのです。

 

 体をコントロールするために大切なのはバランス。均衡感覚です。自分の体を動かすとき、私たちは無意識に均衡感覚を働かせています。歩き始めた乳児が、バランスをとって歩くことを身につけていくプロセスは、見ていてとても微笑ましいものです。そして面白いことに、バランスが取れているとき、そのことは意識されません。バランスが崩れたときに、ハッとして、バランスが崩れたことが意識にのぼります。

 

 たくさんハイハイをすること、たくさん歩くこと、走ること、木登りや縄跳びをすること。積み木、コマ回し、あやとりなどで遊ぶこと。そして織物、刺繍、料理、掃除などの手仕事や家事の仕事の中の動きも、体全体を使う大きなバランスや、手先の器用さにも結びついた繊細なバランスを身につけていくことにつながっていきます。荒尾先生との造形、岩重先生とのオイリュトミー、北洞先生との健康体操、紫野先生との陶芸などなど、講師の先生方との活動はもちろん、それ以外の滝山しおん保育園でのさまざまな活動は、そのためのよい刺激になっています。

 

 バランスが取れているとき、そこには天秤のように、中心があります。バランスが取れている状態は、目に見えない「器」となり、そこに中心となるものを受け取ることができるのです。体をバランスよく使うことができるとき、その人の精神的中心である自我が、その「器」の中でしっかりと働くことができます。しかし中心は、いつも同じ所に留まっていません。動きの中で常にバランスをとり、中心を見つけていくことが必要。動きの「器」です。

 

 体だけではなく、心や精神的な面でも必要なのがバランス。私たちは生活の中で、二つの対極をなすものの中に常にバランスをとっていく必要があります。自分と家族、自分と社会、家庭と社会、自己軸と他者軸、個と集団、子どもと大人、人間と自然、古いものと新しいもの、目に見えるものと見えないもの、挙げていくときりはありません。自分の立ち位置を固定してしまったり、何かに執着したりするのではなく、両極をしっかりと見ながらバランスをとっていくこと。それができると、大切なものが入ってくる動きの「器」が形成されます。それがうまく機能していると、その中に物ごとの本質や意味を受け取ることができ、そのことは人間を健康な状態に促してくれます。そして、クリスマスを迎える冬至に向かう時期、すべての人にとって、この「器」は「マリア」であり、そこに「光」が宿り、そこから「光」が生まれていくのではないかと思います。

​過去のお便り

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