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園長お便り

​こちらは、園だよりで掲載されている巻頭言です。

2022年1月号

           独楽(こま)の秘密

 

 

 あけましておめでとうございます。お正月といえば「独楽回し」。「独楽」は、とてもすばらしいおもちゃの一つです。指をひねって回すもの、両手の手の平をこするように回すもの、そして紐を巻いて投げてまわすものなどなどが一般的ですが、子どもたちは、どの独楽も最初からうまく回せるわけではなく、どうしたら回せるかを、遊びながら身につけていきます。

 

 紐巻き独楽を回すのには、先ず紐を上手に巻くことが大切。片手で独楽を持ち、反対の手で紐を巻いていくときには、いろいろな能力が必要です。巻いていく際、どのくらいの力で紐を引っ張るかがとても大切。独楽の芯の周りは、力を入れて緩まないように巻いていきます。最初がしっかり巻けないとその外側にうまく巻いていくことはできません。中心がしっかり巻けると、その後は、注意深くその外側へと紐を巻いていきますが、外側になるに従って、少し力を抜きながら巻いていかないと、せっかく巻いてきた紐の渦巻きが、崩れてしまいます。紐がうまく巻けると美しい渦巻きが現れます。

 

 独楽の紐巻きは、指、手、腕の繊細な運動感覚、均衡感覚が要求される高度な行為です。最初はうまくできなくても、何度も繰り返しやってみるうちに、少しずつこつがわかってきて、上手になっていきます。そして紐をしっかり巻けるようになると、もう回せたも同然。独楽の投げ方は、紐巻きに比べたら簡単なことで、紐が巻けるようになると、たいていはすぐに回せるようになります。

 

 そして自分で独楽が回せたとき、とても大きな喜びが生まれます。初めて成功したときの喜びは特別なものです。そしてまた失敗しても、繰り返していくうちに、だんだんと確実に回せるようになっていきます。

 

 独楽回しは一つの良い例ですが、伝統的なおもちゃの中には、それで遊んでいくうちに、「からだがかしこくなっていく」という側面があります。乳幼児期の子どもたちのこの時期の課題の一つは、自分のからだを自分でコントロールできるようになること。独楽回しを子どもが楽しんでいく中で、自然に指や手を巧みにコントロールできるようになります。独楽を回すために必要だった繊細な運動能力や均衡感覚は、もちろん独楽回しだけに使われるものではありません。生きていくために必要な能力を、子ども達はこのように、遊びの中でこそ、身につけていくのです。

 

 回っている独楽は、とても速く回転しているのに、はっきりと静けさを持っています。速い動きと静けさという、矛盾するような二つの質が、うまく回っている独楽には、同時に現れるのです。そして回転が遅くなると静けさは失われていきます。どの民族の文化の中にも独楽があるのは、何か大きな秘密があるのではないかと思いますし、漢字での「独楽」と書くのも面白いですね。

​過去のお便り

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